但し今回は、「ガイド」とは銘打たれていません。「ジャパニメーションにおける『変な』感情表現」という題名です。まずは前半です。
よくある漫画・アニメ論の一つとして、漫画・アニメの起源を日本の歴史性に求める主張(『鳥獣戯画』とか)がありますが・・・、うーん、どうなんでしょう・・・。
これまでの「鑑賞ガイド」でも明らかですが、80年代から今現在放送中のアニメまで本当にたくさんのアニメに詳しい金属殿様(Metallord)氏、相当なオタクと思われます。本人にコンタクトを取ったところ、これまでの翻訳記事で「引用画像を使っていないのは残念」ということでしたので、今回は画像を掲載することにしてみました。一律に圧縮しておりますので、あまりに小さくて見にくい方は参照先を開いてご覧ください。
〜以下、前半の訳。
ジャパニメーションにおける「変な」感情表現(前半)
作成者:金属殿様(Metallord)氏
アニメの登場人物たちは、特にコメディにおいて、とても生き生きとしています。登場人物の性格設定は脚本の言わば核心であり、また、その感情表現はジャパニメーション特有のスタイルによって大きな効果をあげています(日本以外の国の作品も、そしてアメリカの作品でさえも、このような表現に少しずつ影響を受けつつあります)。
主な登場人物たちを際立たせるこのようなジャパニメーションの表現法は、[フランス人にとっては]驚くべきものですが、それは当然のものでもあります。
なぜ驚くべき表現なのか?それは、日本が個人よりも集団に価値を置いており、各人は社会規範に従わなければならず、グループのために働かなければならないからです。
しかし、日本の社会が、個人が現実逃避したくなるような抑圧的なものであるとすれば、そのような表現法は当然のものとも言えます。日本の消費社会においては、漫画(ご存知のように極めて多くの人が漫画を読んでいます)やアニメを通して、現実には不可能だったり、ありえそうにない冒険の中で「生きる」楽しみや可能性を得ることができるのです。
ジャパニメーションは、リアリティのある多くの表現テクニックを発展させた一方で、多彩な感情表現に関する映画的リアリズムからは解放されました。このアンビヴァレンスは、日本の歴史的文化の中に見出されます。日本の文化は、(絵画や演劇等の)様々な物語芸術において、生活の場面に関するリアリスティックな表現力を持っていながら、同時に、カリカチュア的ながらも極めて様式化された表現法も持っているのです。
*尾形月耕『後醍醐帝/笠置山皇居霊夢之図』(1890)

*東洲斎写楽『三代目大谷鬼次の奴江戸兵衛』(1794)

*鳥居清忠の作品(1896)

このような突飛で、誇張され、美化されたヴィジュアルにイライラしてしまう素人の方も多いようです。
そうなるのも無理からぬことですから、新参のアニメ好きにもベテランにもわかるように、リアリスティックではないジャパニメーションの多彩なグラフィズムを、その「タイプ」ごとに選んで説明してみたいと思います。ジャパニメーションは、歴史的な美術的系譜に属するもので、多様に分岐しているからです・・・。
要するに、間違いの無いよう正確に論じることで、漫画やアニメは造形美術上クオリティの低い、商業上の二流品に過ぎない、との言説をこれ以上野放しにさせたくないのです(また、『火垂るの墓』を暗く詩情に溢れるリアリスティックな映画にしておきたいがために、あるいは『千と千尋の神隠し』を親しみやすい物語にしておきたいがために、[ジャパニメーションの]変な側面を意図的に無視する、というわけにはいかないのです)。
ジャパニメーションの変わった点として、顔に関する三つの要素が挙げられます。
・目
・口
・そして汗の粒のような、視覚的な表現
これらの要素はコメディではなく、むしろ「シリアスな」雰囲気のジャパニメーションにおいても、緊張をとくためにしばしば登場することがあります。
このような表現は突然現れるように思えますが、多くの場合それを強調するための短い効果音を伴っています(演劇作品の擬音に影響されています)。
この法則の例外として、表情が一瞬歪むことがあります。しかしこのような表現は滅多にありません。
この記事において引用されるアニメのリストは次のとおりです。
1ゴクドーくん漫遊記
2君が望む永遠
3ごくせん
4Death Note
5アベノ橋 魔法☆商店街
6マジカノ
7行け! 稲中卓球部
8撲殺天使ドクロちゃん
9スクールランブル
10エイケン
11炎のらびりんす
12ヴィーナス ヴァーサス ヴァイアラス
13Darker than black‐黒の契約者
14パトレイバーシリーズ
15ノエイン もう一人の君へ
16ぽぽたん
引用作品の大半はコメディですが、それだけではありません。というのは、ドラマティックな物語であっても、アニメは視聴者に一息つかせるために笑いを入れるからです。
笑い
笑いを表現するのは口によってだけではありません。心から笑っているとすればそれは顔全体で笑うからです。目は特徴的な形をしていて、まるでまぶたが上に向かって閉じているかのようです。解剖学的にはあり得ないことですが、このような視覚的な表現は極めて表情に富んでいます。なぜならこの表現は、頬骨が上にあがり、目を「押し上げて」閉じさせているかのような印象をうけることで、笑いが強調されるからです。このような目の表現は、アニメほど強調されていませんが、(何世紀もの歴史がある)伝統的な演劇の仮面にも見ることが出来ます。
*1

目つきと、笑っていない口の形だけで表現する場合、登場人物の苦笑いになります。ショートメッセージサービス(SMS)やインターネットリレーチャット(IRC)内でのスマイリーフェイス、:-)や、漫画での^_^ あるいは ^^といった例もあります。
苛立ち
登場人物は自分の置かれた状況に飽き飽きしたり、暴力をこらえたりすることがあります。
*5

例としてあげた画像のように、表情が強調され、顔の大部分が影で覆われており、登場人物の忍耐が切れて、イライラしていることが示されています。
スマイリーフェイスで攻撃的ではない苛立ちを示す場合は-_-ですね(攻撃的なスマイリーフェイスは、私の知る限りないと思います)。
汗
*6

顔面を流れる汗の粒はお約束です。登場人物が後ろを向いている場合は後頭部に流れます。
これは、登場人物の身におこる状況を、ある種の諦めと共に受け入れるということを表します。
スマイリーフェイスで使われる場合は、(一種の遠慮である)軽い当惑を表すために^^"を使うか、もはや笑えないくらいの不快感(皮肉を伴った激しい苛立ち)を表すために-_-"を使いますね。
怒り
こめかみに浮き出る血管は、怒りを表したり、怒りを押し殺したりするタイプの表現です。映像で見ると#のような描き方をされます。この#は、後ろを向いている登場人物に対しても使用され、汗が使われるのと同様に髪の毛の上に描かれます。
*3

*2

上の例を順番に見ると、一つ目は基本的かつ古典的な使い方(次第に珍しくなっています)で、二つ目は[漫画から]アニメに移植された極めて漫画的なヴァージョンです。
驚き
驚きは、ぽかんと開いた口で表現されることも多いのですが、なにより以下のような、特徴的な記号によって表されます(ここでは黄色ですが、赤いこともあります)。
*1

*4

このような表現は漫画ではおなじみですが、『DEATH NOTE』のようなリアリスティックな映像のアニメでも使用されます(ミサの口が閉じているのはリンゴをかじったばかりだからです)。
〜以上、前半の訳終わり。
参照先