「20歳以下の人が知り得ない時代について語ります。
そうです。新着記事は20年前のことについて扱っています。
我らのMetallordが、過ぎ去った時代、即ち、『キャンディキャンディ』や他のテレビアニメの創世記について、語ってくれます(なんて昔の話でしょう)。
まだ漫画があまりに酷い評価を受けていなかった、古き良き時代。
昔の思い出に浸り、若い人向けに、フランスにおけるジャパニーズ・アニメーションの登場とその受け取られ方を理解するための記事です。」
Metallord氏って一体何歳?
〜以下、訳。
カルト作品の20年(20 ans de culte)
執筆者:Metallord氏
それは20年前の「カスス・ベッリ」の記事でした。そしてそれは私がもう若くはないということです。

この時代のことを知らない方のために説明すると、「カスス・ベッリ」(*訳注1)は、ロールプレイングゲームやシミュレーションゲームを扱うフランスの雑誌でした。1980年にフランソワ・マルスラという人(*訳注2)が創刊した雑誌で、彼は後にフロワドヴァルというペンネームを持ちました(全然知りませんか?)。
20年前、つまり1987年の第3四半期にこの雑誌の39号が出ました。私が初めて買った「カスス・ベッリ」です。ある夏の晴れた午後、それに出会ったのです。
この雑誌の中には、パリで先行上映されたばかりの、『超神伝説うろつき童子』(*訳注3)の[日本での]発売予定にふれた記事がありました。この記事は最初の三つのOAVに関するもので、[一つ目のOAVはこの1987年、そして]1988年と1989年に残りの二つが発売されることになります。当時、西洋はOAVと言うものをまったく知りませんでした。さらに、このアニメとこれに続く各篇が1989年に映画として日本で公開され、これに続いて[フランスでは]、『悪魔伝説』(La légende du démon)というフランス語タイトル名で、密かにVHS形式で流通し、カルト的作品となりました。
この抜粋記事をより良く理解するために、この記事を取り巻く当時の時代背景を見ておきたいと思います。この年、『Akira』の製作がやっと終了し、翌年の1988年に日本で公開されます。フランス公開は1991年です。1988年には『火垂るの墓』と『となりのトトロ』も日本で公開されていますが、フランス公開はそれぞれ1996年と2002年です!フランスでは『北斗の拳』がまだ話題にすらなっていません。事実、クラブ・ドロテ(*訳注4)がこの1987年9月に始まったばかりだったのです。

このような時代に、1987年から1996年に及ぶ『超神伝説うろつき童子』の長編OAVがデビューしました。2002年に再評価されることになりますが、それは、日本人のみがマスターしている二重のジャンル、すなわちホラー=ヘンタイ(horreur-hentai)というジャンルにおいてのことでした。この雑誌記事の執筆者は、この時代の影響を免れることはできなかったでしょう。つまり、ファンタジー映画やホラー映画を好きなだけ見ていた彼・彼女のような人であっても、この当時参照することのできた日本のアニメーション作品は(当時は、アニメも、ジャパニメーションも、漫画と言う言葉さえありませんでした)、『キャンディキャンディ』、『宇宙海賊キャプテンハーロック』、『キャプテンフューチャー』、『スペースアドベンチャー コブラ』のような、およそ10から20程度のタイトルに限られていたのです。これらの作品は、ディズニー作品と紙一重の、道徳的で正しい物事についてのものでした。また、1987年に5チャンネルが『小公女セーラ』と、『超時空要塞マクロス』を滅茶苦茶にした『ロボテック』の放送を始めたことが思い出されます。抜粋記事を読むにあたっては、このカルト的なシリーズ[=『うろつき童子』]が持っていた衝撃の強さを感じてみてください。そしてこの記事の執筆者による簡潔な表現に寛容でありましょう。彼・彼女はあのように書くしかなかったのです!
原注:「カスス・ベッリ」の抜粋記事にはWolverineとの署名があります。20年たった今の彼・彼女の見解を尋ねたかったのですが、前世紀のものであり、また、今は存在しない雑誌のもので、残念ながら連絡を取ることはできませんでした。申し訳ありません。
2007年6月20日Metallord
〜以上、Metallord氏の記事の訳終わり。
〜以下、「カスス・ベッリ」の抜粋記事の訳。
この記事↓の訳です。より大きな画像は、参照先ページで記事画像をクリックすると見ることが出来ます。

超敵伝説(La Légende de l’ennemi supérieur)
このような作品のテレビ放送は絶対に許されない。
30分の中編作品として上映されたこの映画は、高山秀樹監督によるもので、1988年1月に撮影終了予定の長編映画の第一篇である。このメイドインジャパン(made in Japan)のアニメーションを放映した30分間は、間違いなくこの映画祭(*訳注5)の一大イベントであった。観客にとって正に平手打ちであり、セックスと暴力のあまりの氾濫に茫然自失となってしまった。アニメーションの分野であんなものは見たことが無い!極端かつ常軌を逸した妄想の様な映像の中で、セックスと血に飢えたモンスターに変身する何人かの少年たちによって、3000年の封印を経たこの超敵が復活する。怪異なホラー描写から派手なポルノ描写までを通してこの「超敵」に具現化されているのは、日本の伝統的価値のすべて、すなわち男性優位主義、好戦的精神、性的支配、暴力、巨大至上主義、そして伝統だ。この超敵に対抗する善人役として、腹黒そうなチンピラと、エゴイスティックで性的偏執者の娘が登場する。ここにあるのは極めて主観的なメッセージであり、経済的覇権、機械化文明、そしてろくでもないアメリカかぶれとありがちな伝統主義が混ざった紋切り型の文化という、病んだ日本をそこに見て取ることができるのである。『超敵伝説』は内容においても形式においても革命的であり、そのお陰で、ひとにぎりの日本のアニメーターは自己満足し、また、「見事な体つき」を尊大にみせびらかす悪魔的なハーロック船長に対して性的な奉仕をさせるために、キャンディのパンティを剥ぎ取ることができたにちがいない。
Wolverine
〜以上、「カスス・ベッリ」の抜粋記事の訳終わり。
参照先
以下の訳注の情報のほとんどは、wikipedia.frから得たものです。
*注1:カスス・ベッリ(Casus Belli)は、フランス初のロールプレイングゲーム専門誌(1980年4月創刊)。誌名は「開戦事由」(戦争の開始を正当化する事実)を意味するラテン語で、ロールプレイングゲームが、戦争シミュレーションゲームから派生したことにちなんでいるものと思われます。RPGに限らず、オンラインゲームや、より広くファンタジー文化に関する話題も扱っていたようです。いくつかの出版社を経た後、2006年11月に最終号を出して廃刊となった模様。
*注2:フランソワ・マルスラ=フロワドヴァル(Francois Marcela-Froideval 1958〜)は、「カスス・ベッリ」の創刊者。1982年に渡米して、TSR社のファンタジーテーブルトークRPG『ダンジョンズ&ドラゴンズ』の制作に参加。帰仏後も様々なゲーム開発に参加。今日においてはむしろ、フランスの漫画、バンド・デシネの脚本家の一人として有名。代表作に『黒い月のクロニクル』(Chroniques de la Lune Noire)など。「フロワドヴァル」はペンネーム。
*注3:日本アニメに対する海外の「イメージ」に極めて大きな影響を与えた『超神伝説うろつき童子』については既にご存知のことと思います。未見のため、訳におかしいところがあるかもしれません。ご指摘があればお願いします。なお、抜粋記事は「超神」ではなく、そのまま「超敵」(ennemi supérieur)と訳しています。「私設 うろつき童子支援サイト‐三界の果て」様はこちら。
*注4:他記事で何度か言及したクラブ・ドロテ(Club Dorothée)は、1987年から1997年の間にTF1で放送されていた子供向け番組。日本のアニメや特撮作品を数多く放送し、既にご紹介しているように、セゴレーヌ・ロワイヤル氏たちに糾弾され、打ち切られることになります。
*注5:記事の全体画像を見ると「第16回パリ・ファンタジー映画祭」とありますので、「ナウシカノーパン伝説論争」の記事の中で言及した、『風の谷のナウシカ』の改悪版『風の戦士たち』("Warriors of the Wind")が審査員特別賞と観客人気賞第三位を受賞した映画祭のことかと思われます。