2007年07月28日

必見:『アズールとアスマール』

 AnimeKaのトップページで今月やっているアンケートの途中経過をご紹介。

質問:ジャパニメーションに対する一般人のイメージは良くなったと思いますか?
 A はい、お陰で自分もカミングアウトできるようになった。
 B いいえ、ジャパニメーションは今も評判が悪い。
 C 良くなったが、微々たるもの。

回答結果:A=1651票(32.0%) B=585票(11.4%) C=2917票(56.6%)
回答総数:5153票(7月28日現在)

 二重投票もあるであろう一サイトのアンケート結果を基に何かを言う、というのは危険なことかもしれませんが、敢えてそうするならば、フランスでアニメ愛好者であるということは、カミングアウトするかしないかに関わるような「深刻な」問題であった、と言うことができると思われます。しかも、過半数の人は未だイメージ改善の程度は「微々たるもの」と考えているようです。アニメの人気が高いとは言え、アニメ愛好者の意識も、アニメに対するフランス社会の目も、そう単純ではなさそうです。

 しかし、もしアニメに対するフランス社会の目が完全に肯定的なものになってしまったとしたら(そんなことはありえないでしょうが)、今のようなアニメ人気は持続するのでしょうか?


 そんなことより、ミシェル・オスロ監督の最新アニメーション映画、『アズールとアスマール』(Azur et Asmar)を観ました。是非是非お奨めしたい映画です。

 フランスでは2006年10月に公開され大ヒット。日本アニメのような激しい展開や作画で見せてくれる映画ではありませんが、穏やかにそして美しく、社会的なテーマを扱っています。

「血の色はどちらも同じよ!」(Le sang est la même couleur!)

 アズール(azur)はフランス語で「紺青」、アスマール(asmar)はアラビア語で「褐色」、つまり『金髪碧眼のヨーロッパ人と褐色黒目のアラブ人』の話です。

 舞台は中世のヨーロッパと北アフリカ。領主の息子アズールは、アラブ人乳母のジェナヌに、ジェナヌの実の息子アスマールと一緒に兄弟のように育てられます。しかし、アズールは突然寄宿学校に送られ、ジェナヌ親子は解雇・放逐されます。

 青年となったアズールは、ジェナヌに聞かされていた妖精ジンについての伝説に憧れを持ち、海を越えてアラブ世界に入ります。そこでアズールは目の碧さゆえに酷い差別を受ける一方で、大富豪となっていたジェナヌ親子に再会します。境遇が逆転した中、妖精ジンに会うために旅に出るアズールとアスマール。

 この映画、3DCGによる見事なアラブ風幾何学文様やまばゆいばかりの色彩感覚、あるいはシャムス=サバ姫の可愛い仕種等が見所でしょう。しかし、むしろ「三歳からの子供用映画」との指定のわりに重い、「人種差別」というテーマの方に心奪われました。アラブ系移民がフランス社会で現に受けている差別がこの映画の背景にあることは明らかです。

 差別はアラブ人に対するものだけではありません。迫害された過去を語る賢者ヤドアの顔からカメラがクローズアウトして、視界にダヴィデの星が飛び込んでくるシーンで、ドキリとしたフランス人は多いはずです。

 アズールは、船が難破して一文無しになり、目の碧さゆえに地方の貧しいアラブ人から不当な差別を受けます。そのため、当初はアラブ世界を「醜い」とみなすのですが、モスクと教会とシナゴーグが共存する都市の、裕福で教養ある人々との個々の出会いによって、様々な人種を受け入れているアラブ世界の「美しさ」にも気がついていきます。

 オスロ監督が巧みなのは、非寛容なヨーロッパ世界に対して、アラブ世界が目の色だけで人を差別する一面を持ちながら、同時に寛容と包容力をも持っている、という両面性を描いている点です。先ず、この両面性の裏に、経済的・知的格差があることが示唆されます。また、「差別する側」であるフランス社会だけでなく、「差別される側」へのメッセージにもなっています。立場が逆転した時のことを考え、お互いに偏見や思い込みを捨てることが促されます。肌や目の色、言語、宗教によってカテゴリー化される人種としてではなく、人間として、一個人として、他者と接することの大切さです。あまりにも理想的で現実には難しいことですが、日本社会にとっても示唆は少なくないと思われます。

 フランス公式HPでは、学校の教材としてこの映画を使用することも推奨されていて、例えば小学生向けの公民教育で、以下のような点が課題例として挙げられています。

・この映画に盛り込まれている柔軟さ、尊敬、友愛といった価値について議論せよ。
・人種、肌の色、性、言語、あるいは宗教による差別の無い形で、人の自由と平等を規定している人権宣言の条文を勉強せよ。

 こういうところは「さすが」(?)フランスです。

 アロシネを見ると、大多数のフランス人は絶賛していますが、一方で「イデオロギー的に偏りすぎ」、「西洋世界を一方的に悪く描きすぎ」、「退屈で長すぎ」といった批判もあるようです。また、この映画の単純な楽観主義は、「子供向け」という口実だけで許されるものなのか、という疑問も呈されています。確かに、この映画の楽観的な理想的未来像(特にラスト)に失笑してしまう人がいてもおかしくないと思います。しかし、この監督の意気込みを買いたいと思いました。

 むしろ気になったのは、当事者であるマグレブ三国(アルジェリア・チュニジア・モロッコ)出身の人たちがこの映画を観てどう思うだろうか、ということです。例えば日本人が『ラストサムライ』を観て感じる違和感と同じようなものを、彼らも感じるのだろうか、と。違和感のない理解や表現を求めるのは酷過ぎるのかもしれませんが。

 蛇足ですが、アズールとアスマールの関係に心ときめく腐女子の方々はきっと多いはず、と思いました。
 また、冒頭の授乳シーンが問題となって、アメリカでは配給先がなかなか見つからなかったそうです。何が問題なのか全然分かりませんでしたが。

 気になった方は是非是非ご覧になって下さい。


日本公式HP

フランス公式HP

読売新聞:ミシェル・オスロ監督インタビュー

超映画批評:『アズールとアスマール』95点(100点満点中)
posted by administrateur at 22:02| Comment(0) | TrackBack(0) | Anime en France | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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