2007年12月01日

フランス人の『ローゼンメイデン』評

 英語版wikipediaの『もやしもん』のページ見てみたら、トリヴィアとして「農学部の建物はポルトガルのコインブラ大学とほぼ同一のもの。時計塔の旗もポルトガル国旗と色の構成が同じ」とありました。コインブラ大学行ったことあるけど、全然気がつかなかった。ってゆーかコインブラの雰囲気と『もやしもん』の雰囲気のギャップに吹いた。

 それはともかく、Orient Extrêmeの評者によるローゼンメイデン(第一期)評をご紹介。

 ローゼンメイデン第一期はKaze社がライセンスを取得し、今年7月にフランス語吹き替え版が発売されています。

 「乳酸菌摂ってるぅ?」はどう訳されたのでしょうか・・・。

 Ijime、Hikikomori、kawaiiは最早国際語。

〜以下、訳。
ローゼンメイデン(第一期)  ドールたちはその力を発揮する

 PEACH-PITの漫画を原作としたアニメ、『ローゼンメイデン』は、12話(第一期)に渡って、強固な意志を持つ生きた人形の登場によって生活が一変した少年を描く作品である。物に生命を吹き込むという奇跡的でありながら奇怪なことが、いかなるマジックによって可能になったのだろうか?西洋流の『トイ・ストーリー』のような少し嫌味のある(acidulé)世界観とは違い、日本流のやり方は全く異なっており、雰囲気はより暗く、[人と物の]主従関係が逆転している。我々に命令してくるのはローゼンメイデンたちなのである。いったいどんな作品なのだろうか・・・。

他者との出会い

 桜田ジュンは、姉ののりと一緒に暮らしており、二人の両親は仕事で海外に行ってしまっている。彼は日がな一日ネットサーフィンをして、ありとあらゆるものを購入している。毎日何十もの小包を開封する楽しさに加えて、彼はもう一つ別のことも楽しんでいる。それは[注文した]品物すべてを再梱包し、返却猶予期間内に送り返すことである。彼は、広告の指示に従って、特に注意も払わずに書類のチェック欄に×をつけてしまう。実際、ちらしの注意書きや警告を真に受ける人がいるだろうか?まずいないだろう。しかし・・・。しばらくしてジュンの部屋に奇妙な鞄が届く。開けてみると、鞄の中には精巧かつ美しい出来の、妖しい魅力を放つ人形が入っていた。そして彼はこの玩具のねじを巻きなおしてしまう。すると、あり得ないことが起きる。人形が自分から眼を開き、動き出す。真紅が目覚めたのだ。

 この最初の出来事に続いて、別の出来事が少年を襲う。彼は、もう一人の生きた人形、水銀燈の命令を受けたピエロの人形に攻撃される。この非現実的な襲来から身を守ろうと、彼は真紅と契約を結ぶ。真紅の助力と引き換えに、彼は真紅のミーディアムになることを受け入れる。

 ローゼンメイデンたちに関する真実は部分的にしか明らかにされない。彼女たちの生命力の源は、小さくて不思議な人工物、ローザミスティカにあり、人形同士が戦う際にこれを奪い合うことになる。彼女たちはミーディアムのエネルギーを自分の力として使っており、両者をつなぐ絆は薔薇の指輪というアクセサリーに象徴される。

 この作品の導入部は、このように[視聴者の]興味を引き付ける効果をあげているが、その程度はそんなに高くない。これを見てすぐに、このアニメが極めてありがちな王道を行っていることがわかる。このアニメの終盤までの大筋は、第一話からして察しがついてしまう。一見感じが悪く、何らかの問題を抱えた落ちこぼれのところに、闖入者が居候として入り込む。次第に友情が生まれ、互いを認めることで互いを支えあうようになる。極めて月並みなパターンであり、ここで退屈した人はこのアニメシリーズを、見た途端に忘れてしまうような、今時の消費の仕方が似合う作品群に分類してしまったかもしれない。

 極めて幸いなことに、『ローゼンメイデン』はそのような作品ではない。これまでに使われてきた方法を踏襲しながらも、二番煎じに終わっていない。歌詞と謎めいた映像が見事に融合したオープニングは、特別で不思議な雰囲気を持っている。一貫した脚本によるリズミックな展開のおかげで興味が尽きることはない。映像のクオリティはまだ半信半疑の[視聴者の]期待を盛り上げてくれる。生き生きとした色使い、極めて入念に設定されたキャラクターデザイン、そしてそのおかげで作品に入り込みやすくなったこと、これらの点がこの物語に欠くことのできない基本的な魅力となっている。人間の登場人物はジャパニーズアニメーションにありがちなタイプであるとは言え、衣装の点でも立ち居振る舞いの点でも[キャラクター]固有のスタイルを持っているドールたちに興味が集中することになる。

 真紅とジュンは今や順境にあっても逆境にあっても固く結ばれており、互いを知り、互いに支えあっていかなければならない。二人の共同生活が立ち止まることはない・・・。

気取り屋のドールたちの面白さ

 薄緑と血のような赤い色をしたヴィクトリア朝の衣服を贅沢に着飾る真紅は、気取っており、権威的な物言いをする。貴族のようにジュンを家来呼ばわりし、「ドアを開けて頂戴」とか「お茶を淹れて頂戴」などといつも命令している。そしてもしジュンがすぐに命令を実行しない場合、向こうずねを蹴って命令を遂行させる。彼女は、トイレを小さなティールームと誤解した時も、テレビ番組を見て怖くなり一人になりたくないので少年の後を影の様に付いてまわった時も、常に傲慢な態度を崩さない。この少年は、忌まわしい過去を背負っており、簡単に調子に乗ったり、すぐにカッとなったりする。彼は大仰な身振りをし、叫び、容赦なく相手を追い払おうとするが、結局はいつもおとなしくなる。彼の静かで孤独だった引きこもり生活は、[ドールたちに]いつもかき乱されることになる。

 次々に現れる他のドールたちが彼の家に無断で住み込むようになる。まずやって来たのが「精神的に」極めて幼い雛苺であり、気まぐれでわがままで泣き虫なおてんば娘のように振る舞う。叫んだり泣いたりすることはしょっちゅうで、子供のような喋り方や考え方に少しイライラさせられる。非常に活発ながらも厄介な幼女と、気難しくて無口な少年という、二人の極端な人物の間でバランスをとる仲裁者が、真紅であるように思える。次に現れるのが翠星石と蒼星石であり、赤と緑の、片方ずつ色の異なった眼を持つ、双子のローゼンメイデンである。翠星石は、尊大で高飛車であり、ジュンを「チビ人間」(gros nul)と言って憚らず、ずけずけとものを言う。蒼星石は、より穏やかで、自分のミーディアムのためなら何でもしようと考えており、翠星石と別れてでも献身的にミーディアムの亡くなった息子として扱われることを受け入れている。

 このような性格設定からすると、一見して登場人物が極めて底の浅い人物であるように見える。しかし、そのような設定に縛られ、ありがちな設定からして視聴者が予想できてしまうような[登場人物の]気持の変化が描かれる一方で、同時にその内面が深く掘り下げられるのがこの作品である。とは言え、『ローゼンメイデン』はここでもドールたちやジュンの過去を長々と説明するような過ちを犯してはいない。コミカルなシーンとドラマティックなシーンが交互に用意され、この小さくも奥深い、複雑な世界観が表現されているのであり、大きな感動を呼び起こすのである。

 ジュンは昔から自室にこもって強迫的に物を買い続ける人間だったのではない。いくつかのフラッシュバックのシーンからして、彼がijime(+原注1)の被害者であり、勉学のプレッシャーに耐えられなかったということが分かる。クラスで一番の成績でありながら、彼は試験に失敗し、教師たちの失望とクラスメートたちの嘲りを受けることになる。hikikomori(+原注2)は、強く自分を恥じいる心から始まる。それは、不満を吐き続け、会話してこようとする数少ない人たちを罵倒する、引きこもりの苦悩なのであり、この作品でのりに代表される近親者たちの無力感でもある。のりは解決法を探し求めようと諦めない。ジュンの興味をPCの画面以外のものに向けさせようとしたり、外出させて食料品店に行かせようとしており、それが極めて心を打つ。このアニメの主な魅力の一つは、この仄かな希望の光である。

 ローゼンメイデンに目を移すと、雛苺が常に注意を自分に引き付けようとしているとすれば、それは彼女が捨てられ孤独になるということを恐怖しているから、ということになる。同様に、真紅と蒼星石も平静を装う仮面の下に、そして翠星石も高飛車な仮面の下に、雛苺とおなじ感情を隠している。この[自分の]存在に対する不安感は、子供が大人になれば忘れられ捨てられる玩具たちの不安感であり、物の人間に対する不信を表している。か弱く傷つきやすいからこそ、彼女たちは極めて魅力的なのである。このような側面に関する限りでは、彼女たちは「あまりにカワイイ」(trop kawaii)。しかし、水銀燈に目を向けると、彼女たちのまた違った、より暗い側面が見えてくる。いかにカワイイとしても、結局は彼女たちは小さな人形に過ぎないのだ。

完璧になるための代償

 水銀燈は他のドールとは異なる存在である。いつも陰に身をひそめ、甘い声色とは対照的に、笑い声は不気味で、服装はゴスロリ調、そして性格は残忍卑劣である。フランス語版に関して特筆すべきなのは、声優の選択がぴったりであるということだ。ニュアンスに富んでいてとても生き生きとしており、わがままな雛苺が激しい口調でわめくシーンでさえ、会話を聞いていて面白い。水銀燈は憎悪にさいなまれ、自分が未完成のドールであることに劣等感を持っており、このような感情があまりにも強いため、ミーディアムの援助を必要としなくなる程にまでなっている。彼女は自分の父親を文字通り崇拝しており、その寵愛を獲得するためには決してひるむことはない。

 その父親についてだが、究極の少女を製作したかったこと以外、この男に関する情報が極めて少ない。彼は生前に全部で七体しか製作しなかった。従って、ローゼンメイデンたちは試作品に過ぎない。

 この部分に関しては、完璧な少女が目指されている点をはじめとして、ルイス・キャロルの作品、『不思議の国のアリス』への参照が多い。つまらない勉強を逃げ出して風変わりな者の住んでいる想像の世界に入り込んでしまうアリスは、同様に別世界に逃避する能力を与えられているローゼンメイデンたちと相通じあう所がある。事実、彼女たちは自分の存在を反映した空間を作り出し、人間の夢を介して人間の内面世界へと道を開くことができる。すなわち、それは人間の精神を映し出す鏡である。この象徴的な空間は、ディティールに凝っており、「アリスゲーム」(この名前自体は安直だが)という激しい戦いの場でもある。ドールたちはそこで互いに戦うことを強いられ、敗者は自分のローザミスティカを勝者に差し出すことになる。自分の生命の源を失うことになるため、敗者は唯の物体になってしまうだろう。映画『ハイランダー』(*訳注1)におけるように、最後に生き残った者だけが父親のもとに赴き、完璧な存在として父親を満足させることができる。とは言え、実際はそう簡単ではない。ドールたちは、自分の姉妹や友人を破壊することで、自分の製作者である超越的な存在を満足させなければならない、という残酷なディレンマの下に置かれているのである。ドールたちには、存在し続けるためには完璧な存在を目指さなければならないという選択肢しか用意されておらず、この条件に自分が縛られていることが分かっていながら、自分の姉妹や友人を犠牲にする覚悟がまだ全員には出来ていない。残酷な話ではないか?

 自らのロジックに閉じ込められたドールたちからの観点を中心に見てきたが、脚本は別のテーマに関する考察を可能にする一定の内容も含んでいる。たとえば、ミーディアムの役割について、ドールとの関係はエネルギーを供給することだけなのか?そうでないとすれば、ミーディアムはエネルギー以外の何をドールにもたらすことができるのか?また、自分の作品に満足しなかった製作者は、ドールたちが彼のために戦いあうに値する人物なのか?

 『ローゼンメイデン』の物語の枠組みは革新的なものではないものの、その中身のクオリティが充実していることにこのシリーズの魅力がある。月並みでありながら同時に面白いこの作品によりふさわしい言葉は、間違いなく「楽しい」(divertissante)という形容詞である。小さなドールたちはあなたを感動させてくれるだろうから、彼女たちに賭けてみてはどうだろうか。

Sabine Soma


原注
(1)Ijime:一人に対して全員が迫害を加えること。
(2)Hikikomori:この言葉は、自室に閉じこもり、それ以後外出しなくなった人たちのことを指し、その大半が若者である。彼らは引きこもった生活をし、他人と関わりを持たず、完全に世界と隔絶している。この状態が長引けば長引くほど、この自分の殻から抜け出すことが難しくなる。
 この二つの概念は、巧みなそして見事な形で、すえのぶけいこの『ビタミン』(*訳注2)に取り入れられている。


〜以上、訳終わり。


訳注
 *1:『ハイランダー』(1986年英)は、不老不死の戦士たちが時代を超えて、最後の一人になるまで戦う話だそうです(未見です)。
 *2:すえのぶけいこ『ビタミン』は、フランスではPanini社から2005年9月に翻訳出版されています。


参照先
posted by administrateur at 21:30| Comment(2) | TrackBack(2) | ローゼンメイデン | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
深い介錯ですn
Posted by at 2009年03月09日 21:40
アリス文化圏の人々の評価が興味深いです。この感じならなんとか合格かな、まだ原作が終わってないので先が楽しみですね。いろんな意味で。

人類と人形の歴史をいつかは何らかの形で総括される日がくるのでしょう。コンピューター時代の到来と共に女性たちが出現してくるロボット社会と、どう向き合うかが無意識のうちにテーマ化してきている2000年代になって、命を預かる宿命をどう再確認していくのか先立つCLAMP作品[ちょびっツ]と重い思考ですね。
Posted by 映画の友 at 2010年05月28日 01:30
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